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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)224号 判決

原告 加藤ナカ 外四名

被告 世田谷税務署長

主文

原告らの各請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

(原告)

「被告が原告らに対し昭和四一年五月二日付をもつてなした相続税の更正処分(ただし裁決によつて一部取消された)のうち課税財産価額が各原告につきそれぞれ別表請求額欄記載の金額を超える部分及び同日付でなした過少申告加算税賦課処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(被告)

主文と同旨の判決。

第二原告ら主張の請求原因

一  原告らは加藤伊助が昭和三七年一一月七日死亡したので、その遺産を共同して相続し、昭和三八年五月七日被告に対し課税財産価額を各原告につきそれぞれ別表申告欄記載の金額として相続税の申告をした。

ところが、被告は原告らに対し昭和四一年五月二日付をもつて右相続税について課税財産価額を各原告につきそれぞれ別表更正欄記載の金額とする旨の更正処分をするとともに同日付をもつて過少申告加算税の賦課決定処分をした。

原告らはこれを不服として昭和四一年六月一日被告に対し異議の申立てをし、同年八月二五日被告から右申立てを棄却する旨の決定を受けたので、同年九月二二日東京国税局長に審査請求をしたところ、同局長は昭和四二年八月一〇日付をもつて前記更正処分につき課税財産価額を各原告につきそれぞれ別表裁決欄記載の金額とする旨の一部取消しの裁決をし、同年一〇月六日原告らに右裁決書の謄本を送付した。

二  しかしながら、右更正処分には次のような瑕疵があり、したがつて、右加算税賦課処分とともに違法である。

すなわち、右相続における被相続人加藤伊助はその生前の昭和二九年一月二八日株式会社三越(以下、三越という。)から一億二、九〇〇万円を借り受けた事実があるので、原告らは右相続税の申告においては右借入による債務を各原告につきそれぞれ左の金額に分割して課税財産価額から控除した。

原告 加藤ナカ 一、五〇〇万円

同 加藤万寿蔵 七、四〇〇万円

同 林喜美   一、五〇〇万円

同 加藤俊男  一、五〇〇万円

同 加藤義男  一、〇〇〇万円

しかるに、被告は右借用金債務を相続開始時には四〇九万二、六五〇円と評価すべきであるとして、右更正処分において原告らの債務控除額をそれぞれ左の金額に更正した。

原告 加藤ナカ  四七万五、八九〇円(一、四五二万四、一一〇円減)

同 加藤万寿蔵 二三四万七、七二〇円(七、一六五万二、二八〇円減)

同 林喜美    四七万五、八九〇円(一、四五二万四、一一〇円減)

同 加藤俊男   四七万五、八九〇円(一、四五二万四、一一〇円減)

同 加藤義男      三一万七、二六〇円(九六万二、七四〇円減)

しかし、右のように相続開始時確実に存在した相続債務を評価減すべき法令上の根拠は全くないのであつて、右更正処分にはその限度で瑕疵があるのである。

第三被告の主張

(請求原因に対する答弁)

原告主張事実のうち、一の事実は認める。同二の事実は被告がなした相続債務の評価減に法令上の根拠がなく、したがつて原告主張の各処分に瑕疵があるとの点を除き、すべて認める。

(抗弁―処分の理由)

一  加藤伊助と三越との間に締結された原告ら主張の金銭消費貸借契約は租税負担回避のためになされた通謀による虚偽仮装のものであつて無効であるから、これによつて原告らに対する相続税の課税財産価額から控除すべき相続債務が生じたということはできない。

その間の消息は次のとおりである。すなわち、加藤伊助は昭和二九年一月二八日その所有の東京都中央区日本橋室町一丁目七番地の二宅地二七六・一三平方米につき三越に対し存続期間を向う六〇年とし、地代を年一二九万円としその増額をしないこととする旨の約で地上権を設定するとともに、三越から一億二、九〇〇万円を弁済期は向う五年後とし貸主、借主のいずれか一方の申出により延長することができ、その期限の利益は双方のために存することとし、利息は年額一二九万円とする旨の約で借入れ、かつこれによる債務を担保するため右土地に抵当権を設定するという内容の契約を締結し、三越から右金員を受領した。

しかし、当時、三越は他のデパートとの競争のため従来の店舗(三越本店)と地続きになる前記土地を敷地の一部とし恒久的建物たる地下三階、地上七階建の鉄筋ビルデイングを建築して店舗を拡張する計画を有したが情勢上早急にこれを実現すべき必要に迫られていたし、他方、右土地の所有者である加藤伊助は計画中の木屋ビルデイング建設のため多額の資金を必要としていたのに、右契約内容は両者が置かれていた右のような実情とは全く裏腹なものであつて、三越の地上権取得については名目上は権利金等の対価が支払われた事実がなく、またその地代も地価に比して著しく低廉であり、また、伊助の借用金はその金額が多額でありながら、年一分の低利であるのみならず、借主の意思により何時までも返済請求を拒絶することができるものとされていた。

したがつて、右金銭に関する契約当事者の真意は、むしろ伊助から三越に対する地上権設定の対価として授受する趣旨にあつたものであり、これをあえて消費貸借の目的として授受する趣旨の契約に仮装したのは伊助が負担すべき所得税(当時は不動産所得)を回避する目的に出たものと解されるのである。

そして、伊助の相続人なる原告ら自身がそのことを十分認識していることは次の事実から明らかである。原告らは昭和四二年三月一日右土地を三越に売渡し、その代金の額としては底地の代価として見積つた六八九六万六〇九九円に借地権の代価として伊助が三越から借受金名義で受領した一億二、九〇〇万円を加えた計一億九、七九六万六、〇九九円の更地価格としたうえ、伊助が受領した右金員をもつて右代金のうち借地権の代価相当分が支払われたものとして取扱つたが、伊助が三越のため右土地に地上権を設定した当時、右土地の近辺において借地権は更地価額の九割に及ぶ価額で取引されていた。

二  仮に、加藤伊助と三越との間の消費貸借契約が有効であるとしても、これによる相続債務について被告がなした評価減には次のような根拠が存した。

(一) 相続税法二二条は相続により取得した財産の価額から控除すべき債務の金額はその時の現況による旨を規定しているが、右相続債務は前述のように少くとも地上権の存続中(地上権設定の日から向う六〇年間)は返済の必要を生じないものと認められるから、弁済期を伊助について生じた相続開始の五一年後(右地上権存続期間から右相続開始までの八年一〇月を控除した残)たるものとして算定するのが相当である。そして、弁済期未到来の債務の評価は弁済期未到来の債権の評価と同様、券面額から弁済期までの中間利息を控除して算定すべく、その利率は相続税の関係では一般に年八分を相当とする。したがつて、右利率と前記相続債務の約定利息の利率との差たる年七分による期間五一年の複利現価率〇・〇三一七二六を右債務の元本一億二、九〇〇万円に乗じて算出した四〇九万二、六五〇円をもつて右債務の相続開始時における現況による金額となすべきである。

(二) 右の点を若干補足すれば、将来弁済される相続債務の評価方法については、相続税法二二条のほかに、昭和二六年一月二〇日付直資一ノ五国税庁長官、国税局長通達二〇九(無利息債務の評価)があり(被告は本件口頭弁論の過程において、将来弁済される相続債務の評価方法を直接定めた通達はないと主張したが、右主張を撤回する。)、右通達によれば、無利息債務の評価については「弁済期にいたるまでの正常金利により課税時期における複利現価の額をもつて債務の金額とする」と定められていた。もつとも、右通達は富裕税にかかる財産の評価に関するものであるが、昭和三七年四月二七日付直資六五「昭和三七年分の相続税等に適用する財産の評価基準について」と題する国税庁長官、国税局長通達により、昭和三七年中に課税原因の発生する相続税(または贈与税)にかかる財産の評価についても適用されることになつていて、当時各国税局長が定めていた相続税の財産評価基準は後に昭和三九年四月二五日付直資五六国税庁長官通達によつて設定された「相続税財産評価に関する基本通達」の別表六と全く同一の複利表を掲げていたのである。

そして、複利現価の算定に際し控除すべき中間利息の利率として年八分を相当とするのは預金運用利廻り及び貸付運用利廻りを考慮した場合正常金利が年八分であることに根拠があるが、その妥当性は相続税法二四条が将来給付を受けるべき有期定期金及び終身定期金に関する権利の評価方法につき基本的には年八分の複利現価によつて算出することを規定している点からも裏付けられる(右各定期金に関する評価方法を示せば、有期定期金については残存期間に受けるべき給付金額の総額に、残存期間に応じて定められた割合、すなわち残存期間に受けるべき給付金の年八分の複利による現価の合計額が給付金額の総額のうちに占める割合ただし端数を整理したものを乗じて算定し、また、終身定期金については一年間に受けるべき給付金額に、課税時期における年令に応じた倍数、すなわち平均余命年数に受けるべき給付金の年八分の複利による現価の合計額の一年間に受けるべき定期金の額に対する倍数ただし端数を整理したものを乗じて算定するのである。)。

(三) なお、原告らは加藤伊助が三越から前記債務の負担によつて取得した財産は相続財産として課税価額に含まれているのであるから、右債務についての評価減は相続税法を無視したものというべきであると主張するが、伊助が右債務の負担により取得した一億二、九〇〇万円は株式会社木屋ビルデイングに建築資金として貸付けられ相続開始時までにその大部分を回収されたといいながら、相続財産に帰属した経過を明らかにすることが不可能である。仮りに、相続財産に帰属したものがあつたとしても、被告は相続財産のうち、伊助が三越に地上権を設定した前記土地についてはこれを貸宅地として自用地の一割に当る一、〇三七万二、四二一円と評価したから、他方、右債務について相続開始時の現況によつて評価しても少しも不合理ではない。

第四原告らの主張(抗弁に対する答弁)

一  被告主張の一の事実中、加藤伊助と三越との間に締結された金銭消費貸借契約における約定及び金銭授受の事実並びに右契約と同時に被告主張の内容の地上権及び抵当権設定の契約が締結されたこと、当時、三越及び伊助がそれぞれ被告主張のような経済的事情に置かれていたこと、原告らと三越との間に被告主張の土地売買契約が締結され、伊助が三越から受領した金銭をもつて右売買代金の内払がなされたものとして取扱われたことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

伊助が右各契約を締結した当時、地上権設定の対価たる権利金はその所得区分を不動産所得とされ、譲渡所得におけるような半額課税の取扱いを受けられなかつたため、世上土地所有者は地上権の設定につき権利金を受領する代りに金銭を借入れ、または保証金、敷金の預託を受ける形式で地上権者から金銭を受領していたものであるが、それだからといつて、右金銭授受の契約が虚偽仮装であつたわけではない。

二  被告主張二の(一)の事実中、原告らの相続債務が右地上権の存続中は返還の必要を生じないものであることは否認する。右地上権設定契約によれば、むしろ、右債務は地上権存続中にも弁済されることが予測されていたものであり、また伊助と三越との間においてはその後弁済期を昭和三九年一月二七日と定めた事実もあるのである。

なお、弁済期未到来の債務の評価に関する被告の主張は根拠がない。右相続債務について被告主張の計算によつてなされた評価額の妥当性は争う。仮りに、右評価額を元本として年八分の金利収入を得ることができるとしても、これによつては、原告らが現実に負担する年一分の金利さえ支払うことができないばかりか、数年を出でないでその金利負担に堪えることもできなくなるであろう。また、伊助が右債務の負担によつて取得した財産は相続財産として課税価額に含まれているのであるから、右債務についての評価減なるものは相続税法を無視したものといわねばならない。

同(二)の事実中、被告主張の昭和二六年直資一ノ五および昭和三七年直資六五の国税庁長官、国税局長通達ならびに昭和三九年直資五六国税庁長官通達が存し、昭和二六年直資一ノ五の右通達が富裕税にかかる財産の評価に関するものであつて、被告主張の事項を規定し、昭和三七年直資六五の右通達により昭和三七年中に課税原因の発生する相続税にかかる財産の評価についても適用されることになつていたことは認めるが、高額所得層に対する所得税の補完税としての富裕税(当時五五%であつた所得税の最高税率が昭和二八年七〇%に引上げられるとともに富裕税は廃止された。)にかかる財産評価方法がそのまま相続税にかかる財産評価、殊に相続取得財産の価額から控除される相続債務の評価に妥当すべき道理はなく、昭和三九年直資五六の右通達(現行)は昭和二六年直資一ノ五の通達の規定を削除した(なお、被告は本件口頭弁論の過程で将来弁済される相続債務の評価方法を直接定めた通達がないことを主張しながら、後に右主張を撤回したが、右主張の撤回には異議がある。)。昭和三九年直資五六の通達の別表六が被告主張の複利表を掲げていることは否認する。被告主張の表は右通達本文所定の複利年金現価・複利現価・複利終価を計算する便宜のため参考として掲げられているにすぎない。また、複利現価算定上、控除すべき中間利息の利率として年八分を相当とする根拠に関する被告の主張は争う。

第五証拠〈省略〉

理由

一  加藤伊助が昭和三七年一一月七日死亡したので、原告らがその遺産を共同して相続し、昭和三八年五月七日被告に対し課税財産価額を各原告についてそれぞれ別表申告欄記載の金額として相続税の申告をしたこと、被告が原告らに対し昭和四一年五月二日付をもつて右相続税につき右課税財産価額を各原告についてそれぞれ別表更正欄記載の金額とする旨の更正処分をするとともに同日付をもつて過少申告加算税の賦課決定処分をしたこと、原告らがこれを不服として昭和四一年六月一日被告に対し異議の申立てをし、同年八月二五日右申立てを棄却する旨の決定を受けたので同年九月二二日東京国税局長に審査請求をしたところ、同局長が昭和四二年八月一〇日付をもつて前記更正処分につき課税財産価額を各原告についてそれぞれ別表裁決欄記載の金額とする旨の一部取消しの裁決をし、同年一〇月六日原告らに右裁決書の謄本を送付したことは当事者間に争いがない。

二  そこで、被告の原告らに対してなした右各処分の適否について判断する。

加藤伊助が生前の昭和二九年一月二八日三越との間において一億二、九〇〇万円を借入れる旨の金銭消費貸借契約を締結し、三越から同額の金銭を受領したこと、原告らが前記相続税申告において右契約により相続債務が発生したとし、これを各原告につきそれぞれ原告ら主張の前掲金額に分割して課税財産価額から控除したことは当事者間に争いがない。

(一)  ところが、右相続債務の発生に争いがあるので、先ず、この点から検討する。

加藤伊助と三越とが右金銭消費貸借契約において弁済期は向う五年後とし貸主、借主のいずれか一方の申出により延長することができ、その期限の利益は双方のために存することとし、利息は年額一二九万円とする旨を約し、右契約締結と同時に、これによる債務を担保するため伊助所有の東京都中央区日本橋室町一丁目七番地の二宅地二七六・一三平方米に抵当権を設定するという内容の契約ならびに右土地につき存続期間を向う六〇年とし、地代を年一二九万円としその増額をしないこととする旨の約定で三越のため地上権を設定する契約を締結したこと、そして、以上の各契約にいたる事情の一端として、当時、三越がその店舗と地続きになる右土地を敷地の一部に加えてこれに店舗を増築する計画を早急に実現する必要に迫られていたし、他方、右土地の所有者たる伊助がビルデイング建設のため多額の資金を必要としていたことは当事者間に争いがない。

被告は右契約内容が当時、契約当事者の置かれていた右経済的実情にそぐわないとし、それから推して、前記金銭の授受は当事者の真意においては地上権設定の対価たる趣旨であつたのを、租税の負担を回避するため、消費貸借の目的たる趣旨に仮装したものであつて、これによる金銭消費貸借契約は通謀による虚偽表示である旨を主張するが、右認定の事実からしても、伊助と三越とは前記各契約によつて、それぞれ当時必要としていた財貨を取得するとともに、その約定によつて互に過不足のない取引をなしたものと認めるに難くないから、被告主張のような前提から契約当事者の真意を疑うのは当らない。そして、ほかには前記金銭消費貸借契約が通謀による虚偽表示であることを認むべき証拠はない。

してみれば、伊助は右契約により三越に対し一億二、九〇〇万円の借入金債務を負担し、原告らは伊助の死亡により右債務を共同して承継したものといわなければならない。

(二)  次に、右相続債務の評価減の当否について検討する。

1  相続税法一四条一項は相続税の課税価額算出上、控除すべき相続開始の際現存する被相続人の債務としては確実と認められるものに限る旨を定め、また、同法二二条はかような債務の金額は相続財産の取得の時(相続開始の時)の現況による旨を定めている。

そして、弁済期未到来の金銭債務を、ある特定の時期における現況により評価する場合、その金銭債務が通常の利率による利息の定めがあるものであれば、債務者が弁済期までに享受する経済的利益は弁済期までに債権者に支払うべき金利の総額と相等しく、その現実の支払いによつて帳消しとなる勘定であるから、その債務については金利の点を考慮せずに元本の金額そのままに評価して妨げないが、これに反し、金銭債務が無利息のものまたは通常より低利率による利息の定めがあるものであれば、債務者が弁済期までに享受する通常の金利相当額の経済的利益は弁済期までの通常の金利相当額のうち現実には利息として支払いを要しない分に相当する額だけ弁済期が到来しても残存する勘定であつて、これによつてその債務の消極的価値を減じているから、さような債務については元本の金額から無利息または低利のため評価時以降弁済期までに生ずべきであつた債務者の経済的利益すなわち右のように利率の差によつて算出される中間利息を控除した残額を評価額とするのが相当である。なお、この場合に、複利計算の方法によつて中間利息を算出するのが現下の社会経済情勢に適合するものというべく、また、その計算の基礎たる通常の金利の利率として年八分を採用しても近次の金融市場のすう勢上あながち不当とはいい難い。

右中間利息の控除の算式につき債務の元本額をA、約定利率をR、弁済期をn年後、現在の評価額をXとして方程式に表すと、

X=A×1/{1+(8-R)}n

となる。

ところで、加藤伊助が三越に対して負担した一億二、九〇〇万円の借入金債務は伊助について相続が開始した当時確実に存在したものであることはさきに認定したとおりであるから、同人の相続人たる原告らに対する相続税課税価額の算出上控除すべき相続債務に当るものということができる。

そして、さきに認定した事実によれば、右金銭の消費貸借においては弁済期は向う五年後としながら、貸主、借主のいずれか一方の申出により延長することができ、その期限の利益は双方のために存する旨を定められたから、これを実質的にみると、右約定の確定期限は有名無実であり、同時に貸主および借主が右貸借を終了させることにつき意思が合致しない限り、そのいずれかのために弁済期が到来することはないものと解されるところ、伊助が右契約と同時にその所有の土地につき存続期間を向う六〇年とし、地代を右借入金の利息と同額の年一二九万円とし、その増額をしないこととする旨の約定で(したがつて、右地代と利息とをいずれも全額につき相殺することが可能である。)、三越のため店舗増築の目的で地上権を設定したこと、しかも、そのような複数の継続的契約関係の設定が伊助および三越双方の利益に合致したことはさきに認定のとおりであるから、ほかに特別の事情がない限り、右両者は右地上権設定当時、その存続期間には右金銭の貸借を終了させる意思がなかつたものと推認され、したがつて、その弁済期は実質的には契約締結時から少くとも向う六〇年(右地上権の存続期間に相当する。)後の約であつたものと解するのが相当である。してみると、伊助の右借入金債務は同人について生じた相続開始時の現況では弁済期まで五一年余を残したものというべきである。

そこで、前出の方程式によつて、右借入金債務につき中間利息を控除して右時点における評価をすると、それが四〇九万二、六五〇円であることは計数上明らかである。

その算式は次のとおりである。

X = 129,000,000×1/{1+(8-1)}51= 129,000,000/851= 4,092,650円

2  原告らは仮に右評価額を元本として年八分の金利収入を得ることができるとしても、これによつては原告らが現実に負担する年一分の金利さえ支払うことができないだけでなく、数年を出ないでその金利負担に堪えることもできなくなる旨を主張するが、右主張は複利計算による中間利息の控除の意味を理解しない独自の見解に基づくものであつて、採るに足りない。

また、原告らは伊助において右債務の負担によつて取得した財産が相続財産として課税価額に含まれているとし、これを理由に右債務についての評価減の違法を主張するが、仮に右主張の事実が存したとしても、これをもつて右債務の評価減を攻撃する根拠とはなし難い。

3  それならば、被告が右相続債務についてした評価は相当というべきである。

(三)  以上の次第であるから、本件各更正処分および各加算税賦課決定処分にはなんらの瑕疵もないものといわざるを得ない。

三  よつて、右各処分の取消しを求める原告らの本訴請求をいずれも理由がないものとして棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎 小木曾競 山下薫)

別表〈省略〉

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